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ST SPOT DANCE SERIES vol.44「ラボ20#9」
《フライング・ソーサーマン》他
五人五色の五つ星

隔月刊「Ballet」(音楽之友社)Vol.19 2001年5月号掲載
高橋大助

Ballet  横浜のSTスポットで開催される「ラボ20」、若手の登龍門としてはすでに注目されていたようだが、丹野賢一を選考アドバイザーに迎えた今回、5人の出演者がそれぞれに好演し、イベントとして出色の出来となった。

 一番手は《フライング・ソーサーマン》の小浜正寛(ボクデス)。スクリーンのアニメーションと関わり、身体の一部を映像に置き換えて動き、結果、どんな優れたダンサーにも不可能な「超腕伸ばし」や「頭部爆破」などの大技がポップに炸裂。一方、指先1本の曲げ伸ばしで観客を集中させてしまいもする。最後、カレーを早食いして『ダンシングクイーン』をバックに勝ち名乗りを上げる姿は大いに笑えるが、ダンスってなんだよ、と挑発的に問いかけているようにも思えた。

 続く《UDO-未確認舞踊物体》の大橋めぐみは、すでに自分の動きをものにしていた。資料には「中性的・非人間的」とあるが、無表情なままで痙攣する少女のような身体には〈性差〉の問題が痛みをもって語られているように見え、ぼくなどその迫力に自身のセクシャリティを逆撫でされるような気がした。

 三番手、手塚夏子の《私的解剖実験》では、すっぽり被った紙袋に口紅で顔を描く様子が「初めてのお化粧」という感じで可愛らしい。視覚を閉ざしたためのぎこちなさが「見守る姿勢」を喚起するのだ。さらに、紙袋を破いて露出させた唇のダンスは「まねる意欲」をもたらし、幾人かの観客は彼女に合わせて唇を動かしていた。

 四人め、有田美香子の《そしてただそれだけ》のテーマは「待つ」。だが、この動詞の響きに反した弾けた動きの連続だった。終わりの方での天井から降ってきたゴム製のリングとの絡みが特に目を引いたが、あれは偶然の出来事だったというのは象徴的だ。動いてこそ、何かが起こる。それも「待つ」ということ。

 ラスト、天野由起子《パープルル》には、不思議な味わいがある。身に紫で模様を描いても、花をちぎって床に撒いても、突然シコを踏み出しても、全てがあまりに自然に流れていき、言葉でうまく捉えられない。ただ確かに「いまここ」ではない何処かに心を運ばれた実感があった。そして、あれ以来、不意に彼女の動きが甦ってくることがあるのだ。

 五人のこの顔合わせ、今回限りでは残念、と思っていたところ、大阪TORII HALLでの再演(5月23日)が決定。要チェック!


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